風の歌を聴け
![]() | 風の歌を聴け 村上 春樹 講談社 2004-09-15 by G-Tools |
「あらゆるものは通り過ぎる。誰もそれを捉える事は出来ない。僕らはそんな風にして生きている」
上の一文のおかげで一生忘れられない作品になりました。
そう、あらゆるものは通り過りすぎるんだよ。時間も季節も人も真理も何もかも。僕らが触れることが出来るのはそのごく一部にしか過ぎないし、たとえ触れられたとしても捉えることなんて到底出来ない。
それなのに僕らは、限られた情報しか認識していないにもかかわらず「これが世界のすべて」だと思い込む節がある。
だいたい、ぼくらが認識している世界なんて氷山の一角にしか過ぎないわけでしょ。多くのものは、氷山のごとく深い海に潜んでいるものなんだよ。
本書とは直接関係ないけど、フランツ・カフカは100年前にこう言っています。
もし、ぼくらの読む本が、頭をガツンと一撃してぼくらを目覚めさせてくれないなら、いったい何のためにぼくらは本を読むのか? きみが言うように、ぼくらを幸福にするためか? やれやれ、本なんかなくたってぼくらは同じように幸福でいられるだろうし、ぼくらを幸福にするような本なら、必要とあれば自分で書けるだろう。いいかい、必要な本とは、ぼくらをこのうえなく苦しめ痛めつける不幸のように、自分よりも愛していた人の死のように、すべての人から引き離されて森の中に追放されたときのように、自殺のように、ぼくらに作用する本のことだ。本とは、ぼくらの内の氷結した海を砕く斧でなければならない。
カフカは凄い。カフカの言う通り、ホントに素晴らしい本とは僕らの内の氷結した海を砕いてくれる本だと思う。
本書『風の歌を聴け』は間違いなくその類の本だと思う。それはまるで、(僕らが普段は目にすることが出来ない)心の奥深くに潜む氷を砕くかのごとく僕らに作用する。
素晴らしい本です。村上春樹を読んでみようかなと思ってる方にはページ数も極端に少ないのでおススメ♪♪