アヒルと鴨のコインロッカー
![]() | アヒルと鴨のコインロッカー 伊坂 幸太郎 東京創元社 2006-12-21 |
因果応報―。これがこの小説のテーマとなっている。
これは「自分のやった善は善果を生むし、また悪を行えば悪果が返ってくる」という仏教の教えである。主要人物の一人でありブータン人のドルジはかたくなにこのことを信じていた。
しかし、理不尽にもドルジが愛する彼女は愉快犯に殺されてしまう。彼女は死んだ、それなのに、犯人はいまだにのこのこと暮らしている。そんな不公平な世界にドルジが罰を下す。かたくなに仏教の教えを信じ、虫けらでさえ殺せなかったドルジが犯人に復讐しようとするのだ…。
ドルジじゃないけど、僕もときどき思うんだ。この世界は「理不尽さ」や「不公平さ」であふれているし、「因果応報」なんてただの迷信に過ぎないって。世界は不完全で、それでいて不確実なもの。この世界に完全さなんてもとめちゃいけない。
確かドストエフスキーもこんなことを言っていたな。
ぼくはべつに、自分の神さまに反乱を起こしているわけじゃない。それが存在することは知っている。ただ『神が創った世界を認めない』だけさ。
虫も殺さずに生きてきたドルジが彼女を殺されてこの世界に何を見出したのか。そんなことを考えてしまう、ちょっと切ない読後感だった。