目的と手段、経営と宗教を融合させる強い信念こそがカリスマリーダーの哲学『会社のなかの宗教』
会社のなかの宗教―経営人類学の視点 | |
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宗教は手段として捉えると行為者の本意を見誤る
経営と宗教について学ぶ中で見つけた一冊。しょっぱなから下記のくだりに突入。宗教的価値意識と経営や組織運営の関連が扱われるとき、しばしば採用される解釈は、宗教を企業の営利目的のために「手段として利用している」という見方である。組織構成員の意識統合のためであったり、労働強化を正当付けるためである。そのような解釈が当を得ていることもおおいにあるだろう。
しかしながら、宗教的価値意識と営利目的の諸行為は、そのような一面的なつながりだけで結論を出せるものではないことはすでによく知られるマックス・ウェーバーの古典「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」を見るだけでも明らかである。
行為者の営利活動における深層の意識は、決して、プロテスタント的価値意識を実業のために利用した、とは言えないほど信念に満ちたものであることをウェーバーは示してみせた。
著者が言うように、宗教を営利活動の手段として利用している、ということ以上に両者の関係は深く、総合的に捉えていく必要がある。実際に米屋の創業者、諸岡長蔵や、スジャータで知られる「めいらくグループ」の日比孝吉に共通するところは、事業を行うにあたり天理教教祖の教えに忠実であろうとした点であり、公私の活動・生活に宗教が浸透していたことがうかがわれる。日比孝吉に関しては、教祖の教えを実現することが最も大切であり、事業は手段でしかない、とすら言っている。
上述の2名の活動を見てみると、「主」対「従」、「目的」対「手段」の対立的解釈を超越したところに、実践者たちの本意が宿っていることが分かる。彼らにとって、目的と手段は未分化で融合的なものである。であるからこそ、実践者の口から発せられる信念や使命感に力強さが宿ることになる。分化されやすい「目的と手段」を、コインの表裏のように分離することのない強い信念こそ、経営者にカリスマ性や強いリーダーシップを与えている。
松下幸之助の経営哲学に影響をあたえた天理教
松下幸之助は、1932年の3月上旬、知り合いの信者に連れてこられた天理を訪れた経験が、企業人としての使命を考えるきっかけとなり、この年をもって松下電器は「命知」の年とし、同年5月5日を「第一回創業記念日」としている。いくつかの文献をあたっても、天理教の教えのどの部分が幸之助の心を捉えたのか不明である。しかし、全国から手弁当で集まってくる信者たちが、自主的に嬉々として、「ひのきしん」と呼ばれる奉仕活動に従事する、かつて見たこともない活気に幸之助は圧倒され、人は損得以上に、使命感を深く感じたときにむしろ大きな内部エネルギーを発揚するということを目の当たりにしたのではないか、と推察される。
優れたリーダーは社員の成長・幸福を促進する→スピリチュアリティの研究へ
経営層の間で今日スピリチュアリティに対する巨大な関心が生まれている。リーダーのもっとも大切な仕事は、社員が成功し、よりよく働ける環境を作ることである。それは内面から来るものであり、社員のスピリットの成長を促進する以上によい方法はない。組織においてスピリチュアルな企業文化を創造し、会社も社員もハッピーとなるには実際にどのようにすれば良いのか。企業は組織であるからトップ自らが模範を示し、組織としてのスピリチュアルな価値がしっかりしていて、日々の日常業務において実践されなければならない。一つの実践事例として、サウスウエスト航空の成功があげられる。
スピリチュアルな経営モデル
一番重要なのは、組織のスピリチュアルな価値。これは組織の魂、目的意識、優先事項、哲学、経営理念を意味する。その会社内部においては社員の行動や意思決定の基準となる。次に、ビジネスと従業員への計画と目標。組織のコアな価値によって実際にどのようなビジネスプランが形成されるのかを示す。実践レベルで、個人やチームのプランを決定する。
三番目は、計画と価値を強化するヒューマンリソースマネジメントの実施。従業員を開発し動機づけるHRMを意味する。会社の採用から異動、昇進、賃金、教育などの人材面での施策を意味する。
最後に、成果・組織の実績・社員の態度とスピリチュアリティ。HRMの実施によって、最終的な物的・精神的な成果や結果を意味する。そしてその成果が会社のスピリチュアルな価値をさらに維持し、強化することになる。